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心理学系研究職に必要な英語スキル


今回は、アデュールの英会話講師で、心理学系研究職の仕事にも従事している講師による「心理学系研究職に必要な英語スキル」というテーマとなります。


現在筆者は、財団法人で災害関連の研究職に従事しています。
具体的には、一般の人々や市町村の防災担当職員を対象に災害にかかわる質問紙調査やインタビュー調査などを行い、その結果を外部発信しています。

災害研究は範囲が広いですが、筆者の専門は心理学であるため、心理学寄りの防災・危機管理研究に取り組んでいます。

本稿では、心理学系研究職で英語が必要となる場面や求められる英語力などについて説明したいと思います。

1. 心理学系の研究職で英語が必要となる場面

一言で「心理学」といっても、その種類は様々となります。一般的にイメージされやすいのはカウンセリングなどを扱う「臨床心理学」ですが、その他にも「発達心理学」や「認知心理学」、「社会心理学」などの多くの研究領域があります。

また、心理学系の研究職としては、大学の教員や研究員、民間企業や財団法人の研究員などが挙げられます。

そういった心理学系の研究職には、どのくらいの英語力が必要なのでしょうか?

心理学の発祥地はドイツですが、学問として大きく発展したのは20世紀以降のアメリカです。そのため、心理学のどの研究領域においても、英語はとても重要なスキルとなります。例えば、心理学系の大学院入試には、ほとんどの場合試験科目として英語が課されています(例:専門科目、英語、小論文)。

研究領域により多少異なりますが、心理学系の研究職においては参照する資料や論文のほとんどは英語で記述されています(図1)。

図1.心理学の英語論文

研究職の主な仕事は、調査や実験などを実施してその結果を外部発信することです。

調査や実験で得られた結果は学会や学術雑誌で発表することになりますが、国際学会での研究発表や国際査読雑誌への論文投稿では英語を使うことになります。

海外の研究者との交流や共同研究の機会もあります。そういった場面では、相手の出身地にかかわらず、多くの場合使用言語は英語となります。

同様に、外国人向け(例:留学生や海外からの来訪者)の講演依頼を受けた場合は、英語で講演や質疑応答を行うことになります。

また、ある程度研究実績を積み上げると、海外の学会や出版社から学術論文の査読依頼や原稿執筆の依頼が来ることがあります。これらの対応も、英語で行うことになります。

2. どのくらいの英語力が求められるのか?

既述のとおり、心理学系の研究職では英語を使う機会が比較的多くあります。

とはいえ、主な仕事だけに限って言えば(調査・実験を実施して結果を外部発信する)、特に必要となる英語スキルは4技能(聞く、話す、読む、書く)のうちの「読む」ことと「書く」ことになります。

英語で書かれた専門的な資料や論文を読むのは、とても疲れます。とはいえ、日本人は英語の読解能力は高いですから、基本的な英文法と専門用語さえ押さえておけば何とかなります。あとはたくさん論文を読み込み、専門的な表現に慣れればいいだけです。

問題は書く能力です。通常、英語の論文は、1本あたり5,000~8,000単語で書かれています。この分量の英文を執筆するのは、慣れていてもとても大変な作業となります。

論文の構成自体は、後述する論文作成マニュアルがあるためそれほど難しくはありません。また、学術論文では客観的に研究内容を記述することが求められますから、気の利いた言い回しや複雑な構文よりも、簡潔な表現や短い文章のほうが適しています。

しかしながら、限られた文字数内で自分の伝えたい内容を正確に書くことは、とても難しいことです。そのため、書き英語については、非常に高いスキルが求められることになります。

3. 心理学特有の英語

心理学系の研究発表や論文執筆を行う場合は、当然、多くの専門用語を用いることになります。ただし、英語の専門用語は、一度その意味や使い方を把握すればそれほど問題にはなりません。

心理学で用いられる英語は、英語自体というよりも、その使い方に独特なルールが設けられています。

例えば、論文執筆の際のルールです。「APAスタイル」と呼ばれる論文様式は、心理学だけでなく、多くの研究分野で採用されています。

APAスタイルでは論文の構成だけでなく、用語の使い方なども規定されています。例えば、差別的な表現は控える(例:chairmanではなくchairperson)や統計用語はイタリック表記にする(例:t-test; M = 20.3, SD = 0.2)などです。

これらのルールは一定期間ごとに見直されているため、その都度新しいルールに沿って論文を執筆する必要があります。

APAスタイルの細かなルールについては、アメリカ心理学会(APA)が発行している論文作成マニュアルを参照して論文を執筆することになります(図2)。

図2.アメリカ心理学会が発行する論文作成マニュアル(引用:American Psychological Association, 2021)

4. 心理学系の研究職は英語必須なのか?

すでに説明したとおり、心理学系の研究職では英語を使う機会が多くあります。しかし、「英語ができないと良い研究ができない」というわけではありません。

日本国内でも研究発表の場はありますし、「心理学研究」などの著名な学術雑誌も刊行されています。研究発表や論文投稿を英語で行う必要は、必ずしもないのです。

英語ができるに越したことはありませんが、英語が苦手でも心理学系の研究職に就くことは十分可能です。事実、英語が得意でなくても、素晴らしい研究をしている日本人の心理学者はたくさんいます。

心理学系の研究職には、専門知識や英語のほか、統計学の知識も必要になってきます。自身の研究成果を理路整然と記述する論理的な思考力も重要となってきます。

すでに説明したとおり、心理学系の研究職で特に必要となる英語技能は読むことと書くことです。

読むことは、ある程度英語で書かれた文章を読み込めば何とかなります。書くことについては、見よう見まねで文章を書き、あとは英語論文の添削サービスなどを利用するという手もあります。

心理学系の研究職において、英語は非常に大きな武器となります。しかしながら、英語はあくまで副次的に求められる能力だといえます。

5. 英語にまつわる失敗談

学術雑誌に論文を投稿すると、出版社側でその論文が掲載に値するかを審査します。審査は当該分野の専門家2~4人で行われ、最初の審査結果が出るまで通常6カ月程度かかります。

論文執筆者は、論文を投稿する前は何度も何度も文章を見返し、誤字脱字や不自然な表現がないかなどを入念に確認します。

筆者自身も、1本の論文を仕上げるために、全体を書き上げた後に最低10回は文章を見直すようにしています。

筆者を含め、英語を母国語としない研究者にとっては、校閲もとても大変な作業となります。特に、多大な時間と労力を費やして1本分の論文を書き上げた後ですから、校閲作業をする気力がなかなか湧いてこない時があります。ですから、時と場合によっては少し手を抜きたくなることがあります。

これは筆者自身の失敗談ですが、ある時1本の英語論文を書き上げた後、自分の文章を読み直す元気が無かった時がありました。主観では書いていた時の手ごたえも悪くなかったため、その論文はそのままさらっと全体確認のみをして出版社に送ってしまいました。

それから約半年後、出版社から審査結果が届きました。結果は「不採択」でした。

研究内容に関する指摘の最後に、「不自然な表現や意味のわからない単語が多々見受けられるため、投稿の際は事前に必ずネイティブチェックを入れなさい」と書いてありました。研究内容に関する指摘以上に、英語に関する指摘が非常にショックだったことをとてもよく覚えています。

当時すでに何本も英語論文が採択されていましたが、英語の添削サービスやネイティブチェックは利用したことがありませんでした。それくらい、当時の筆者は自分の書き英語に自信を持っていました。

しかし、上述の審査結果を受け、改めて英語による論文執筆の難しさ、そして校閲作業の大切さをしみじみ実感しました。

その後、論文全体を見直し、英語もしつこいくらいに確認した結果(結局ネイティブチェックは入れませんでした)、その論文は無事他の学術雑誌に採択されることになりました。

最初の投稿時にきちんと校閲をしていれば、もしかしたら不採択ではなく修正再審査などの別の結果になっていたかもしれません。自分の能力を過信してちょっと手を抜いてしまうと、結局当初以上に時間と労力を浪費してしまうのです。

逆の立場でも、同じような経験を何度かしたことがあります。

筆者は時折英語論文の査読依頼を受けることがあるのですが、単語の使い方や表現が不自然過ぎて、研究内容がよくわからない論文に当たることがあります。恐らく、これらの論文の著者たちも非英語話者だと思いますが、功を急ぎ過ぎて英語を雑に仕上げてしまうと、素晴らしい研究でも正当に評価されにくくなってしまいます。

こういった経験をするたびに、英語に限らず、外国語で文章を書くことはどの国の人にとっても非常に難しいことなのだと実感します。

6. 英語ができれば間違いなく仕事の幅は広がる

日本語だけで論文や書籍を執筆すると、潜在的な読者は日本語を理解できる人たちだけに限られてしまいます。

しかし、英語で自分の研究を発表することにより、より多くの人々に自分の研究や考えを知ってもらうことが可能となります。

現在では、研究者用のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)も活発に利用されています(図3)。

図3.研究者用の代表的なSNS(左がResearchGate、右がpublons)

これらのSNSでは、研究者間の共通言語は英語となります。

SNS上のやり取りから、共同研究や共著書籍の誘いを受けたりすることもあります。そういった意味では、共通の言語(英語)をある程度使いこなせることができれば、仕事の幅は間違いなく広がることになります。

心理学系の研究職に限って言えば、自身の研究の幅を広げるうえで、英語は非常に役立つ道具となります。

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